振袖を縫う(1)

振袖や訪問着などの晴れ着は絵羽模様が多い。着物をキャンバスに見立て一枚の絵のように模様がつながっている。 反物状態でではその模様がわかりずづらいので、着物の売り場では仮絵羽にして衣桁などにかけて展示していることが多い。 ふつうはそのまま呉服…

春宵(3)

秋も深まり、集く虫の音もなにやら寂しげになってまいりました。 光陰矢の如しと申しますが、この乳母の年になりますと月日はあっという間に過ぎ去ってまいります。 若君様にお仕えして早や十幾年、ついこの間まで乳母のお乳を無心にむさぼっていたと思った…

薪ストーブと振袖

立春はとうに過ぎ、暦の上では春だというのに、まだ厳しい寒さは続く。 特にここは人里離れた森の中、標高は500メートルに満たないのだが、自宅周辺より3~4度ほど気温は低い。 晴れた日には日差しが部屋の奥まで注いで暑いくらいだが、日が落ちると急に冷…

初草履

いままで草履というものを履いたことがなかった。 女物の着物を着るのが好きだが、いくら好きだからといって着物を着たまま外へ出て行くわけにはいかない。出て行きたいのはやまやまだが相当の覚悟が必要だ。 着物を着ても家の中で過ごすだけだから草履など…

裁縫依存症

若いころから体を動かすことが好きで家でじっとしているのが苦手だった。 休みの日には森の中で木を伐ったり、重機で切株を掘り起こして整地したり、小屋を建てたりとそんなことばかりやってきた。 しかし寄る年波には勝てずというか、最近外での活動は徐々…

玉の緒の長き袂を・・・

肩からすうーっと床に垂れた極彩色の細長い練り絹。 振袖の魅力は何といってもその長く豊かな袂だ。 着る人の動き合わせて優雅に舞うその様はなんとも形容しがたい。 女なら一度は着てみたいと思うのは無理もないことだ。 それどころか男でさえ虜にしてしま…

白無垢の振袖

何年か前に手に入れた白生地があった。 そのうちに染に出してなどと考えていたのだが、ずっと眠ったままになっている。 このままにしておいてはもったいないので染に出そうと思ったのだが、なかなかいい色が思い浮かばない。 そこでふとこのまま仕立ててみだ…

金襴の懐紙入れ

時代劇などを見ていると武家の女性は必ずと言っていいほど胸に懐剣と懐紙入れを差している。 懐剣は常に差しているのだろうか、それとも外出する時だけなのかその辺はよく分からない。 懐紙入れはいつも差しているように思う。 姫君などのように身分の高い女…

時雨模様

神無月もはや晦日、今年も残すところ二か月となった。 年を経るごとに時間の経つのが早く、子供のころの一年は今のひと月 と同じくらいに感じる。 今日は晴れて部屋の奥まで日が差し込んで、昼間は長袖では暑いほど だった。 しかしこの時期天気が悪いと真冬…

大振袖

最近振袖の袖の長さが気になっている。 振袖の袖丈は人よってまちまちのようだ。もちろん身長がそれぞれ違うのだから袖丈も違うのは当然だ。 問題は着た時の長さだ。 袖下が膝下くらいの比較的短いものから、着丈と同じくらいの長いのもある。標準というのは…

梅雨寒

初夏とはいえこの時期、晴れると日差しが強く、気温は30度を超えることもある。 そんな日が続くと、さすがに着物を着る気になれず、欲求不満気味になってくる。 しかし梅雨前線が南岸に停滞し、前線の北側に入ると日差しも途絶えて、ひんやりとした冷気に包…

素人和裁の楽しみ

退職してから暇ができて裁縫をよくするようになった。 特にやろうと決心して始めたわけではないが、よく着る着物のほつれを縫ったり、寸法を直したりしているうちに針と糸に馴染んできて簡単なものなら縫えるのではないかと思ったのだ。 ちょうど寒くなった…

羽織の帯山

前回の記事にも書いたが、羽織の下は普通お太鼓に結ぶのでなだらかできれいな帯山ができる。 文庫結びの上に羽織を着ることは通常はあまりないのだが、着てみたら帯山が大きくてこれはこれでなんとも魅惑的ではないか。 その姿を鏡に映してじっと見ていたら…

振袖羽織

女性の帯付き姿もいいが、羽織姿も奥ゆかしさが感じられて好きだ。着物のポイントとなる帯を敢えて隠しながら、帯山を覆ったラインが優しさを醸し出す。 羽織はもともと男の物だったので、昔は女が羽織を着ることはなかったようだ。今でも女性は正式の場では…

慮外者ッ

何事じゃ 騒々しい 姫様 曲者にござりまする 慮外者ッ 妾を繭姫と知っての 狼藉か その分には捨ておきませぬぞ 止むを得ぬ 無双流小太刀免 許皆伝 繭姫がお相手申し ましょうぞ いざ どこからでも 参るがよい 容赦はせぬぞえ …時代劇の見すぎかも。

文庫結び

近頃帯結びにはまっている。 私は女の着物が好きでいままで色々な着物を集めたり着たりして楽しんできたが、帯にはあまり興味がなかった。 本来着物とは帯を締めてこそその優雅な美しさが発揮されるものだ。 しかし私は絹の着物の滑らかな肌触り、しなやかさ…

丸ぐけの帯締め

現代のすっきりした装いの着物には組み紐系の帯締めがぴたりとはまると思う。伸縮性もあって締め心地もよさそうだ。 しかし私の好きな裾や袖口に袘綿の入った昔風の着物にはちょっとそぐわないような気がする。 ここはやはり存在感のある丸ぐけの帯締めの出…

寒くなってきた

先日の紫ピンクの引き振袖に綿入のはんてんを羽織ってみた。 盛装である引き振袖に綿入はんてんの取り合わせなど現実にはあり得ない話だが、好きなものを好きなように着るのが私の流儀なのでこれもありかと。 深窓の姫様が重くて堅苦しい打掛を嫌って脱いで…

襞(ひだ)と皺(しわ)は皺襞(しゅうへき)という言葉もあるように似たもの同士にみえるが、実際は随分違うと思う。 襞はどちらかというと好ましい感じがするが皺はよくない印象がある。 美しい襞とはいうが、美しい皺とはあまり聞いたことがない。 家人な…

色無地の引き振袖

床に届きそうな長い袂、ゆったり引いた裾が畳を滑ると心地よい衣擦れの音が… 引き振袖は着物の究極の美しさを表している。 その引き振袖を仕立てようと思った。 しかし一つ難しい問題がある。それは生地がなかなか手に入らないということだ。 普通の振袖用の…

振袖が普段着

今年は残暑らしい残暑もなく、秋の訪れは早いようだ。 このところ朝晩はだいぶ冷え込むようになってきた。 冷房しなくても普通に着物が着られるということは着物好きにとってうれしいことだ。 近頃は寛ぐときはいつもこんな格好をしている。 男の振袖のとこ…

豪商の女たち

豪商の女たち 職を引いてから朝に時間に余裕ができたので、家人に付き合って朝のドラマを見るようになった。 半年に一度新しいシリーズが始まるようだ。 この秋からは朝ドラには珍しく時代物が始まるらしい。時代物といっても幕末から大正にかけての頃の話で…

引き振袖

引き振袖といえば今では花嫁衣裳か舞妓の衣裳くらいしか目にすることはできない。 長い袂をゆらゆらと、裾をゆったり引いた姿は優雅で奥ゆかしく、着物好きなら誰でも憧れる姿だろう。 小紋や附下など普通の着物もいいが、やはり振袖に比べたら物足りない。…

気になる画像

町人らしい男と若い娘の秘め事。 浮世絵にはよくある図柄で特に珍しくもないが、振袖を着て男に口を吸われているのは実は男だと分かると見方も変わってくる。 色子とか陰子とか呼ばれた若い男で、江戸時代かなり流行ったらしい。 浮世絵の春画などを見ると、…

赤無垢の振袖

普段の生活で赤い衣服を身に付けることは皆無だ。 過去を遡っても赤系統のシャツや服など着た記憶はない。 でも女着物となると話は別だ。 すべすべの緋綸子に真っ白な半襟を付けた長襦袢は幼い頃からの憧れの的だった。長年の夢がかなって初めてそれを手に入…

黒八丈の掛け衿

芝居や時代劇などを観ると、町方の女は大抵黒い掛け衿を掛けた着物を着ている。 普通に考えれば、一番目立つ衿のところにわざわざ黒い布を縫いつけるなど、艶消しのはずだが、これが以外にそうでもない。 それどころか、かえって魅力的にさえ見えることがあ…

綿入袢纏

雪国育ちの身にとってふっくらと綿の入った半纏はなじみ深いもので、どこか郷愁を感じさせる。 暖まるには、炬燵や囲炉裏の火くらいしかなかったので、綿入れ半纏は必需品だった。 数年前、あちこち探してみたが、なかなか気に入ったものはなかった。 今は洋…

裁鎮

裁縫をするようになって裁鎮(さいちん)という言葉を初めて知った。 文鎮なら小学生でも知っているだろう。 もっとも近頃学校で書道を教えているのかな?教えていなければ無理だろうが・・・ 文鎮は文字を書くときの重し、裁鎮は裁縫をする時の重しだ。 使…

太袘褄

ふとふきづまというらしい。 引着など裾綿の入った褄先のことだ。 綿入れお引きずりを仕立てようと思った時、一番の気がかりはこの部分だった。 縫い方がさっぱり分からないし、和裁本にも載っていない。 ネットにないかと調べているうちにこんな記事に出合…

重ね着

重ね着 明治時代の古い写真を見ると、二枚重ねや三枚重ねの着物を着ている女性をよく見かける。 江戸時代の浮世絵や錦絵を見ても一枚だけというのはむしろ稀で大抵は何枚か重ね着をしている。 当時は気候も寒く、今のように暖房もなく、防寒の目的が大きかっ…