2020-01-01から1年間の記事一覧

黒の掛け衿

先日取り上げた対丈の綿入れ振袖に黒の掛け衿を掛けてみた。 時代劇でよく見かける町娘や商家の女将さんなどが着物の衿に掛けているものだ。着物の衿は汚れやすいのでそれを防ぐためのものだから、基本的に普段着に付けるもので、晴着やよそ行きには付けない…

綿入れお腰その2

綿入れお腰の心地よさに味をしめて邪な好奇心はエスカレートし、お引きずりの綿入れお腰を仕立ててみた。 お引きずりの着物が好きなので、お腰もお引きずりにしてみたらとあまり深かく考えなかったのだが、いざ出来上がってみるとあまり実用性はないと思った…

秋深しその2

前々回対丈仕立ての綿入れを取り上げたが、袖が短いと何となくもの足らない気がして同じような対丈で振袖も仕立てた。 いずれも裁縫を初めて間もなくの頃に仕立てたものだが、振袖の方は普段着としては袖が障りになって何かと不便であまり着る機会は多くなか…

綿入れお腰

袖口が擦り切れた古い襦袢があった。 薄桃色の本紋地に鹿の子をあしらった年代物で、もう廃棄してもいいのだが、生地が肌に吸い付くように滑らかで捨てるには惜しい気がする。 そこでお腰に仕立て直してはどうかと考えた。 裏は紅絹の羽二重にして綿入れ仕立…

秋深し

ここ、人里離れた森の山荘は今紅葉の真っ盛りだ。 今年は晩秋になっても冷え込みが弱く色づきはイマイチだが、澄んだ青空にくっきりと映える紅葉はこの時期ならではの魅力だ。 着物好きにとってうれしい季節の到来だ。この時期何よりもうれしいのは冷房なし…

引き振袖三枚襲その二

重ね着の場合色の薄いものから重ね、濃いものを一番上に着るのが収りがよいようだ。前回は桃色の上に真紅を重ねたが、あえて逆にして桃色を上にして着てみた。この三枚のお引きずりは全く同じ寸法に仕立ててあるので、どのような順に重ねても裄や丈などに不…

引き振袖三枚襲

引き振袖といえば嫁入り前の娘の盛装だ。昔は姫君や大店の娘などごく限られた女たちしか着ることができなかった。長い袂をひらひらさせて、裾を引きずっていたのでは仕事はおろか家事さえ思うに任せないだろう。箸より重いものを持つ必要のない女たちしか着…

春宵(11)

若君が奸臣城代一派を粛正し、正当な藩主としてその座についてから早や三年の月日がたったのでございます。もはや押しも押されもせぬ立派な藩主として家臣一同の信頼も厚く領民にも慕われているのでございました。そんな若君、いえお殿様もそろそろ奥方を迎…

裁縫は楽し

裁縫に目覚めたのは定年退職後だからそう遠い昔のことではない。動機は自分の着たい着物が無く、自ら縫うしかなかったからだ。それというのも自分が着たい着物は現代風のすっきりした着物を一部の隙もなくきっちりと着るのではなく、昔風の着物をゆったりと…

春宵(10)

若君さま、この度のこと誠におめでとうございます。この日のくるのを乳母は何度夢見たことでございましょう。こうして藩主の座につき威厳に満ちた若君のお姿に接し、乳母はこれに勝る喜びはございません。これは私としたことが申し訳ございません、もはや若…

春宵(9)

乳母の見立ては間違いない・・・昨今のご城代様を拝察するに乳母はそう確信を深めるのでございます。ご城代はひと頃の自信に満ちた言動は影をひそめ、お顔の色もさえず何やら憔悴のご様子にございます。仄聞するところによりますと、政務にも熱が入らず側近…

春宵(8)

本日は亡きお殿様と奥方様の祥月命日にございます。本来ならば菩提寺において盛大な法要が営まれるはずでございますが、奸臣ご城代が権勢を欲しいままにする今、それはかなわぬことにございます。家臣の中にも心を痛めるものもあると聞き及びますが、ご城代…