きもの幻想

慮外者ッ(5)

お家再興のため隣国の領主の側室になることを決意した姫は白無垢姿で殿のご寝所へ赴く。 ー不束者にございますが… ー姫、余の子を生むのだ それが戦乱の世に身を置く 女の生きる道じゃ ー… ……………… 夜も更け有明の月が西に傾くころ、ご寝所を後にする姫の姿が…

花嫁人形

後ろ手に縛りあげられ、広間を引き回される花嫁。 なめらかな沙綾形紋綸子の白無垢に食い込む荒縄…その繩尻は男の手に握ら れている。 うつろな目をした花嫁は白無垢の裾を引きずりながら、さまようように部屋の中をただ歩き回る。 その時花嫁の口からつぶや…

慮外者ッ(4)

ー姫さまにはこれより白 無垢姿でお殿さまのご 寝所へ召されます お召替えを… お家再興のため操を捨てる覚悟をした姫は湯殿で身を浄めた後、心静かに白無垢に袖を通す。 ー今宵は殊のほか冷え まするゆえ、この綿入 れをお召しなされませ 夜の帳も降りたれば…

慮外者ッ(3)

―父上さま、母上さま 繭もこれから参ります 殿は討ち死に、奥方も自害のうえ城も落ちたと知った姫は、心の中でそう父母に話しかけ、最期の時を迎える。 …とその時、無数の敵がなだれ込み姫はたちどころに捕らわれの身となり、敵将の前に引き立てられる。 ー…

慮外者ッ(2)

いざ! 右に左に敵を薙ぎ払う姫君。 しかし多勢に無勢、さしもの姫も次第に力尽きる。 ーむむ、思わぬ不覚… ー下れッ 一歩でも近づいたら 妾はこの懐剣で喉を 突きます と、そこへ現れたのは前髪立ちながら、城内屈指の遣い手と評判の御小姓組若侍。瞬く間に…

春宵(5)

今日も秋の空は澄み渡り、お庭の紅葉がまばゆいばかりでございます。 さりながら乳母の心は晴れるどころか暗く沈むばかりでございます。 このところの若君の心にいかなる魔物が棲みついたのでございましょうか。 今日も今日とてなよなよと、まるで姫と見紛う…

春宵(4)

若君様、今宵も御城代様下屋敷へお渡りの由にございます。 湯殿の用意も整ってござりますれば、そろそろ湯浴みなどなされてはいかがかと存じまする。 乳母がお背中などお流しいたしましょうほどに。 まあ、なんと餅肌とはよく言ったもの。お湯に浸かった後の…

春宵(3)

秋も深まり、集く虫の音もなにやら寂しげになってまいりました。 光陰矢の如しと申しますが、この乳母の年になりますと月日はあっという間に過ぎ去ってまいります。 若君様にお仕えして早や十幾年、ついこの間まで乳母のお乳を無心にむさぼっていたと思った…

初草履

いままで草履というものを履いたことがなかった。 女物の着物を着るのが好きだが、いくら好きだからといって着物を着たまま外へ出て行くわけにはいかない。出て行きたいのはやまやまだが相当の覚悟が必要だ。 着物を着ても家の中で過ごすだけだから草履など…

慮外者ッ

何事じゃ 騒々しい 姫様 曲者にござりまする 慮外者ッ 妾を繭姫と知っての 狼藉か その分には捨ておきませぬぞ 止むを得ぬ 無双流小太刀免 許皆伝 繭姫がお相手申し ましょうぞ いざ どこからでも 参るがよい 容赦はせぬぞえ …時代劇の見すぎかも。