大振袖

最近振袖の袖の長さが気になっている。
振袖の袖丈は人よってまちまちのようだ。もちろん身長がそれぞれ違うのだから袖丈も違うのは当然だ。
問題は着た時の長さだ。
袖下が膝下くらいの比較的短いものから、着丈と同じくらいの長いのもある。標準というのは決まっているのだろうか。
振袖にもいくつか種類があって、特に袖丈の長いものを大振袖というらしい。
振袖は袖が長くなる程格が上がって、大振袖は特に花嫁の着る振袖を意味するとのことだ。
花嫁は髪も高島田に結い、髪飾りも豪華絢爛だから袖もそれにふさわしくボリュームを持たせてということか。
 
自分の場合、初めての振袖が基準になり、その寸法をずっと踏襲してきた。寸法がそれぞれ違うとそれに合わせて襦袢も変えなければならず面倒だからだ。
ところがこのところどうも袖丈が少し短すぎるように感じてきた。
長さが中途半端で満足感がいまいちなのだ。
新しく作る振袖はもっと袖を長くした方いいのではないかと思っていたのだが、襦袢との関係もあり、なかなか踏み切れないでいた。
そんな折、ネットで辻村寿三郎の人形を見ていたら、一つの人形に目が止った。
寿三郎らしい落ち着いた色合いの振袖を着た人形なのだが、その振袖の袂がとても長く、床を引きずっているのだ。裾引きはよくあるが、袖を引きずるのは初めてでとても新鮮な感じで、いいなと思った。
その時袖を長くしてみようと心が決まった。
でもそうすると襦袢も新しく作らなければならない。結構大変だなと思ったが一度そう思ったらやってみなくては気が済まない。
それに長さをどれくらいにするかというのも問題だ。床を引きずるというのは人形の世界では許されても、現実的ではない。中途半端に引きずると足に絡んで躓いたりする恐れがある。でもできるだけ長い方がいい。引きずらない程度にできるだけ長く…これが結論だ。
そんなこんなで仕立てたのがこの振袖だ。

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床すれすれと思ったが、縫い上がってみると袖の先が少し床を引いていて、畳の上を歩くとさらさらと衣擦れの音がする。
例によって袖口と裾のふきには綿を含ませてふっくらと仕上げた。
 
袖は着物の美しさの要諦でほんの少しの丈の違いで印象が随分変わる。
こんなに袖の長い振袖は実用的ではないし、非現実的だ。
でもその非現実な極彩色の大振袖を自分が今こうしてまとっている…
倒錯した思いと滑らかな絹の感触がないまぜになって、大振袖にくるまれる幸せがしみじみと込み上げてくる。

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