2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

春宵(4)

若君様、今宵も御城代様下屋敷へお渡りの由にございます。 湯殿の用意も整ってござりますれば、そろそろ湯浴みなどなされてはいかがかと存じまする。 乳母がお背中などお流しいたしましょうほどに。 まあ、なんと餅肌とはよく言ったもの。お湯に浸かった後の…

振袖を縫う(2)

ここまでくるともう出来上がりは目前で、針を運ぶ指先にも力が入る。 一時も早く着てみたくていつもなら気が逸ってしまうのだが、今回は楽しむようにゆっくり、丁寧にやった。 衿を始末して、最後に共衿をかけてできあがりだ。 最初の仮仕立ての時と同じよう…

振袖を縫う(1)

振袖や訪問着などの晴れ着は絵羽模様が多い。着物をキャンバスに見立て一枚の絵のように模様がつながっている。 反物状態でではその模様がわかりずづらいので、着物の売り場では仮絵羽にして衣桁などにかけて展示していることが多い。 ふつうはそのまま呉服…

春宵(3)

秋も深まり、集く虫の音もなにやら寂しげになってまいりました。 光陰矢の如しと申しますが、この乳母の年になりますと月日はあっという間に過ぎ去ってまいります。 若君様にお仕えして早や十幾年、ついこの間まで乳母のお乳を無心にむさぼっていたと思った…