花魁風胴抜曳振袖

裁縫を始めてから長着、振袖、引き振袖、羽織などいろいろな着物を仕立ててきた。その時自分が着てみたいものを縫ってきたのだが、数が増えると保管場所にも困り、新しく仕立てるのはしばらく見合わせることにした。すると暇を持て余し退屈するようになり、今更ほかの趣味を始めるのも億劫で結局また裁縫を始めるようになってしまった。

裁縫は幅37センチ前後、長さ十数メートルの一枚の布を切ったり縫い合わせたりして着物に仕立てる作業で、やっている時は没頭して時間の経つのも忘れてしまう。

そんな訳で新しく仕立てたのがこの胴抜の引き振袖だ。

 

豪華な打掛をまとった花魁がその打掛を肩から滑り落とすと顕れるのが艶めかしい胴抜姿だ。

実物はまだ見たことがないが画像で見ると、身頃の腰から上と下が別布で、上が麻の葉紋様等の染めで下が豪華な織の生地になっていて艶冶な風情を醸している。二枚重ねの裾は分厚い綿が含められて圧倒的な存在感だ。

 

この通りに仕立てるとなると生地も手に入らないしなかなか難しいので、自分なりにアレンジして仕立ててみた。

本来なら袖は普通の着物と同じくらいの丈なのだが、より華やかにと振袖にし、袖と腰から下の身頃は重厚感を出すために綿入れ仕立てとした。

 


こんな艶めかしい着物はそのシーンが自ずと限られてくる。そう、愛しいお方に可愛がられるときの
艶姿・・・。

 

 

 

 

 

 

 

・・・この前あの方が見えたのが今月のはじめ頃、今日はもう晦日だから一か月近くのご無沙汰。

この歳になると若いころのようにせっかちではないが、しばらく会わないと何となく落ち着かない気分になる。

そんな折、この着物もようやく今日で仕上がりかな、などと思いつついつものように針を運んでいると、あの方から連絡があり今日これから来るとのこと…。

お寝間の衣裳として縫い始めたこの着物、縫いあがったその日が久方ぶりの逢瀬と重なるとは…幸先のよい偶然に心ときめいた。

この胴抜のお引きずりをまとって今宵あの方に抱かれる・・・。

嬉しさにはやる心を抑えながら最後の一針を縫い終えた。

そうだ、折角の仕立て下ろし、襦袢の半衿も替えておかなくては。