梅雨寒

初夏とはいえこの時期、晴れると日差しが強く、気温は30度を超えることもある。
そんな日が続くと、さすがに着物を着る気になれず、欲求不満気味になってくる。
しかし梅雨前線が南岸に停滞し、前線の北側に入ると日差しも途絶えて、ひんやりとした冷気に包まれことがある。いわゆる梅雨寒だ。
こんな日は貴重な着物日和だ。
朝御飯もそこそこに、シャワーを浴びる。その間に除湿モードにしたエアコンのスイッチを入れておく。
浴室から戻ると部屋はからっと爽やかで少し寒いくらいだが、着物を着るにはこのくらいが丁度良い。
久方ぶりの絹の滑らかな感触を求めて肌がうずうずしている。しばしの間練り絹のやさしさにくるまれて桃源郷をさまようことにしよう。
 
帯結びが何とか自分でできるようになると着物を装うことにも新たな楽しみが増えてくる。
昔から芝居や時代劇を見ていつも憧れていたのが、衿を大きく抜いて幅広の帯を胸高に締めた姿だ。特に武家娘などが、大きく抜いた衣紋に文庫結びの帯がくっつくくらい胸高に結んだ姿などを見るとたまらなくなる。
ああ、自分もあんな格好をしてみたい・・・と心が疼いたものだった。
その頃は自分で帯を結ぶことなどとても無理と諦めていたのだが、人は思い続ければその願いはいつかきっと叶うものだ。
ということで理想的な帯結びに挑戦してみた。

イメージ 1少しは良くなったが、まだまだ不満が残る。
後衿と文庫の帯が離れている。ぴったりとくっつくくらいに結びたいのだが一人結びではこれで限界だ。



 










イメージ 2こちらは衿と帯がかなり離れていていまいちだ。
三枚重のおひきずりなので衣装も重く、かさばって帯を結ぶだけで大変だった。

そんなことより久しぶりにおひきずりを着たら、その心地よさに身体が反応してしまい、写真を撮るどころではなくなってしまった。
ずしりと重い三枚重ねのおひきずりにくるまれて文庫帯を結ぶと身体の芯から悦びがあふれてくる。
長い裾を引きずりながらしずしずと歩くとお姫様にもなったような気分で狂おしい程気持ちが昂ってくる。                

今や梅雨たけなわ。梅雨が明けると蒸し暑い夏がやってくる。
それからしばらくは着物好きにとって受難の日々が続くことになる。
そんな時期を前にして、この日は大好きな着物との束の間の逢瀬を楽しんだ一日だった。