2017-01-01から1年間の記事一覧

アンサンブル

先日仕立て直した鹿の子の襦袢は思いのほか気に入った。 それでもう一枚欲しくなり、たまたま同じような色柄のものがあったので手に入れてしまった。 しかし、考えてみれば同じような襦袢が二枚あってもいかがなものか、少し違った柄にした方がよかったかも…

おからげ

森の中を吹き抜ける生ぬるい風が、いつしかひんやりとした乾いた空気に変わってきた。気が付けばもうすでに神無月、季節は滞ることを知らない。 そんな心地よい風に誘われて久しぶりに草履を履いて外へ出てみた。 お引きずりを着て外へ出るには長い裾を何と…

慮外者ッ(2)

いざ! 右に左に敵を薙ぎ払う姫君。 しかし多勢に無勢、さしもの姫も次第に力尽きる。 ーむむ、思わぬ不覚… ー下れッ 一歩でも近づいたら 妾はこの懐剣で喉を 突きます と、そこへ現れたのは前髪立ちながら、城内屈指の遣い手と評判の御小姓組若侍。瞬く間に…

白無垢の引き振袖

台風一過の秋晴れといえば、暑くもなく寒くもなく爽やかな秋空を思い浮かべるが、今日は真夏のような暑さが蘇った。 山荘では昨日と一昨日は今日の暑さが嘘のようにうすら寒く暖房が欲しいほどだった。 寒さを感じるようになると恋しくなるのはやさしい絹の…

大振袖お引きずり

予報では今年の夏は猛暑で残暑も厳しいとのことだった。 関東では七月は天気も良く暑い日が多かったが、八月に入るとどんよりとした曇り空が続き、その割には蒸し暑く、すっきりとした夏空はほとんど見られなかった。 九月に入ると残暑どころか一足飛びに秋…

春宵(5)

今日も秋の空は澄み渡り、お庭の紅葉がまばゆいばかりでございます。 さりながら乳母の心は晴れるどころか暗く沈むばかりでございます。 このところの若君の心にいかなる魔物が棲みついたのでございましょうか。 今日も今日とてなよなよと、まるで姫と見紛う…

髪結い亭主

髪結いの亭主といえば男なら誰しも一度は憧れるものだろう。 何しろ女房に稼がせて自分は遊んで暮らせるというのだから、こんないいことはない。 世間知らずのちょっとぐうたらな男を想像するが、そんなステレオタイプとはちょっと違った髪結い亭主の話を昔…

時代劇の愉しみ

豪華な調度に彩られた寝室をぼんぼりの柔らかな灯りが照らす。枕屏風の側近く延べられた華やかな夜具。その二枚重ねの豪華な褥の上で柔らかそうな綸子のお引き摺りの部屋着をまとい、鴇色のしごき姿で脇息に寄り添うのは浪路。ゆったりと抜いた衣紋から覗く…

花嫁のイメージ

文金島田に髪結いながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろ 泣けば鹿の子の袂が切れる 涙で鹿の子の赤い紅にじむ 高島田に結い上げた黒髪にまばゆいばかりの簪。 赤い鹿の子の豊かな袂をゆらしながら嫁ぐ花嫁。 祝言の宴。見知らぬ人々のさんざめき。 はや宴もたけな…

春宵(4)

若君様、今宵も御城代様下屋敷へお渡りの由にございます。 湯殿の用意も整ってござりますれば、そろそろ湯浴みなどなされてはいかがかと存じまする。 乳母がお背中などお流しいたしましょうほどに。 まあ、なんと餅肌とはよく言ったもの。お湯に浸かった後の…

振袖を縫う(2)

ここまでくるともう出来上がりは目前で、針を運ぶ指先にも力が入る。 一時も早く着てみたくていつもなら気が逸ってしまうのだが、今回は楽しむようにゆっくり、丁寧にやった。 衿を始末して、最後に共衿をかけてできあがりだ。 最初の仮仕立ての時と同じよう…

振袖を縫う(1)

振袖や訪問着などの晴れ着は絵羽模様が多い。着物をキャンバスに見立て一枚の絵のように模様がつながっている。 反物状態でではその模様がわかりずづらいので、着物の売り場では仮絵羽にして衣桁などにかけて展示していることが多い。 ふつうはそのまま呉服…

春宵(3)

秋も深まり、集く虫の音もなにやら寂しげになってまいりました。 光陰矢の如しと申しますが、この乳母の年になりますと月日はあっという間に過ぎ去ってまいります。 若君様にお仕えして早や十幾年、ついこの間まで乳母のお乳を無心にむさぼっていたと思った…

薪ストーブと振袖

立春はとうに過ぎ、暦の上では春だというのに、まだ厳しい寒さは続く。 特にここは人里離れた森の中、標高は500メートルに満たないのだが、自宅周辺より3~4度ほど気温は低い。 晴れた日には日差しが部屋の奥まで注いで暑いくらいだが、日が落ちると急に冷…

初草履

いままで草履というものを履いたことがなかった。 女物の着物を着るのが好きだが、いくら好きだからといって着物を着たまま外へ出て行くわけにはいかない。出て行きたいのはやまやまだが相当の覚悟が必要だ。 着物を着ても家の中で過ごすだけだから草履など…

裁縫依存症

若いころから体を動かすことが好きで家でじっとしているのが苦手だった。 休みの日には森の中で木を伐ったり、重機で切株を掘り起こして整地したり、小屋を建てたりとそんなことばかりやってきた。 しかし寄る年波には勝てずというか、最近外での活動は徐々…