おからげ

森の中を吹き抜ける生ぬるい風が、いつしかひんやりとした乾いた空気に変わってきた。気が付けばもうすでに神無月、季節は滞ることを知らない。
そんな心地よい風に誘われて久しぶりに草履を履いて外へ出てみた。
お引きずりを着て外へ出るには長い裾を何とか始末しなければならない。
それがおからげだ。
身分の高い女性や裕福な商家の女房などは家の中では裾を長く引いて着物を着ていた。外出するときはお端折りにして着物を着たので、ほんの少しの間外へ出るときに、おからげにしたのだろう。
 
映画などでは大名の奥方や大奥の女たちが、腰元を引き連れて広大な庭園を優雅に散歩する場面がよく登場する。
打掛をまとったおからげ姿は文庫に結んだ帯山のふくらみがより強調されてフェチ心をくすぐる。
また歩くたびに打掛の分厚い裾がふくらはぎ辺りを撫でまわし、とても気持ちよさそうだ。
叶わぬ夢とは知りながらこんな場面、一度経験してみたいものだ。
 
ところで褄を取るときは右手で取るのが普通だが、芸者は左手で取るのだそうだ。
それで左褄を取るといえば芸者になることを意味する。
何故芸者は左褄を取るのか。それは芸は売っても身は売らないという芸者の矜持を表すためとか。そのわけは襦袢の褄が右側にあるので、右手で褄を取ると何の抵抗もなく手を入れられてしまう。左手で取ればそれができないからということらしい。
ネットで調べてみる皆判で押したように同じことが書いてある。もっともらしい説明だが、ちょっとでき過ぎな感じで本当かなと思ってしまう。
でも他に理由は見当たらないから異議を唱える訳にもいかない。
しかしこれは少なくても昔からのしきたりや決まりではないようだ。
現代では芸者や舞妓などは左手で褄を取るように躾けられているようだが、戦前あるいは戦後しばらくまではその辺はあいまいだったようだ。
それは古い写真など見ればよく分かることだ。
 
ひょいと小腰をかがめて褄を取りすーっと持ち上げると真っ赤な襦袢の裾が露わに…お引きずりとは一味違ったおからげの艶めかしさだ。

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