お引きずり襦袢のための打掛

地紋を織り込んだ柔らかな緋綸子に鶴や雲取などの吉祥紋を絞り染めにした鹿の子絞りの襦袢は、華やかで艶めかしく、このところその魅力に取り憑かれている。
絞り染めは布を括って防染し模様を現した染色技法で括り染めともいわれ、その歴史はかなり古いようだ。

括り染めというとあの歌を思い浮かべる。

   ちはやぶる神代もきかず竜田川  韓紅に水くくるとは

古今和歌集の秋歌下にあって、百人一首にも選ばれている在原業平の有名な歌だが、竜田川の水を布地に見立てそこに浮かぶ紅葉の美しさを、あたかも括り染めにしたようだと詠んだものだ。
遙か平安の昔から一千年の時を経て連綿と伝わる優美な染織技法に、驚きと感謝そして日本人としての誇りのようなものを感じる。
 
ということで今回もまた鹿の子の襦袢シリーズだ。
今度は鹿の子の打掛を縫ってみた。例によって鹿の子絞りの長襦袢をお直ししたものだ。
長襦袢を打掛に縫い直すなど普通ないと思うが、お引きずり襦袢を着ていたらその上に羽織るものが欲しくなって打掛を縫ってみようと思った。
艶めかしい鹿の子のお引きずり襦袢に、同じ鹿の子の打掛け襦袢を重ねたらどうかと思ったのだ。
打掛は長着の上に着るものだから、生地も唐織や緞子などの厚手の織物を用い、長く引いた裾には分厚いふき綿を入れて重厚な雰囲気を出す。
しかし軽くしなやかな綸子の襦袢地は張りがなく打掛には向かない。
そこで張りを持たせるため全体に青梅綿を含ませてボリューム感を出してみた。

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襦袢姿に打掛など、まるで宿場女郎の出来損ないみたいだが、足袋と懐剣が
辛うじてそれを免れているといったところか。


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