秋恋し

連日の暑さと湿気で好きな女着物を着ることもままならず、味気ない日々を過ごしている。

こんな時は以前撮った写真でも眺めながらしばし自らを慰めるしかない。

 

 

この着物は柔らかな綸子地に四季の花々を染め付けた友禅の振袖で、数年前に仕立てたものだ。

二枚重ねの着付けだが、下着は比翼ではなく同じ寸法に仕立てた白綸子の振袖だ。

昔風の着付けが好きなので袖と裾のふきにはたっぷりと綿を含ませてある。

このころは裁縫の面白さに目覚めたころで立て続けに振袖を五、六枚縫ったのだが、一度着てすぐまた次の仕立てにかかったりしてほとんど着ていないものばかりだ。

お端折りで着る着物は着付けが面倒なのと、重ね着するとお端折りがかさばって始末が悪いのでついつい敬遠して、タンスの肥やしになることが多い。

 

綸子の白生地が手に入ったので、真紅に染めてもらって引き振袖に仕立てたものだ。

銀無地の佐賀錦袋帯を文庫結びにして自作の丸ぐけの帯締めを締めて、白無垢の打掛をまとった。

ちょっと衣紋を抜き過ぎのきらいがあるが、抜き衣紋が好きなのでついついこうなってしまう。

 


引き振袖用の着尺は市販されているのだろうか。

普通の振袖の生地は選り取り見取りなのだが、身丈が最大でも170cmくらいしか取れない。身丈は少なくても

200cmは欲しいので生地が足らないのだ。

そんなわけでこれは振袖用の長襦袢の生地で仕立てたものだ。中に着るものだから色柄は限られているが、生地の長さは18mあって十分だし、何より生地が柔らかくてすべすべで肌触りがとても良いのだ。

 


そんなすべすべのお引きずり振袖は硬い織の帯よりも芯のない柔らか帯を前結びにして着るのが好きだ。

 

 

 

 

黒のベルベットを掛襟にしてみた。

同じ着物でも気分が変わって新鮮な感じがする。

 

 



これも長襦袢用の生地でしたてたものだが、生地からではなく長襦袢から仕立て直したものだ。

昔から鹿の子の長襦袢は憧れだったが、こんな風にまさか自分が着ることになるとは思いもしなかった。

昔のものなのでそのままでは寸法が合わずとても着られない。そこでお直しということになるのだが、せっかく直しても襦袢では見えなくなってしまうので振袖に直してみようと思った。

しかし残念ながらほとんどが100年近く前のものなので、生地が弱っている。元々襦袢用の生地は薄いうえに経年変化しているので仕立て直しても長くはもたない。

何回か着ると所々擦り切れて小さい穴が開いてくる。せいぜい十回着られるかどうか。

 


引き振袖と打掛のアンサンブルにしてみた。生地が薄く打掛にするとへたってしまうので綿入れ仕立てになっている。

 

 

実はこの鹿の子のお引きずり振袖、お床入りのための衣装として仕立てたもの。

柔らか帯を前結びにすると一層それにふさわしい雰囲気になる。

 

 

 

 

今宵、久方ぶりの愛しいお方の来訪。

夜のしじまが漂うころ、ほんのり寝化粧も気恥ずかしく自ら仕立てた赤い鹿の子のお引きずりをまとう。

この姿を見てあの方はどんなお顔を・・・

いい年をしながら小娘のように心躍らせ私はお寝間へ向か

う。