雪乃幻想(7)
雪乃は妄想の世界に棲む妖精だ。
歳は十代半ば色白で目元涼やかな男の子だ。幼いころ母が再婚し連れ子として義理の父親とともにその広大なお邸に住むことになる。
しかし義父にその美貌に目を付けられ、十三歳の時に同衾を迫られて白無垢の花嫁姿で初夜を迎える。
以来側室としてお邸の奥まった一室に住まい、夜ともなると艶やかに装われて義父と枕を交わす。
被虐と倒錯の世界だ。
年端もいかぬいたいけな男の子が赤い振袖を着せられ、義理の父親の欲望の犠牲になって意のままに弄ばれる。
着物フェチにとってこれほど興奮するシチュエーションはない。
昔ならいざ知らず、今の時代こんなことは現実にはあり得ないが、妄想の世界ならいとも簡単に現実のものとなる。
アラコキの自分が五十歳以上若返って紅顔の美少年と化し、被虐と倒錯の世界に浸ることができるのだ。
雪乃は女の心をもって生まれてきた男の子、いまでいうトランスジェンダーということになろうか。
今の境遇は限りなく不幸なのだが、救いがないこともない。
それはとりあえず心の性に従って生きているということだ。
弊衣破帽の散切り頭から島田に結ってお蚕ぐるみに変わっただけでもどれほど心の安らぎを得たか。
夜の営みについては辛い務めとみることもできるが、逆に義父に導かれて女の悦びに目覚めたとする方が面白い。
義父と枕を交わす毎にその喜びは募り、やがて女として逝くすべを覚えた雪乃は終わりのない絶頂に導かれたまま泣き、叫び我を忘れて狂態の限りを尽くす。
女の着物をまとうことを無上の喜びとする自分だが、それだけでは何か物足らない。それを埋めてくれるのが現実を飛び越えた奔放な妄想で、その悦びを倍増、いや何倍にもしてくれる。
かくして雪乃になった私は今日も被虐と倒錯の世界に遊ぶ・・・
(この項続く)