雪乃幻想(6)

 「今夜から雪夫の布団は私の部屋に敷きなさい」

お義父さまのその一言が全ての始まりでございました。

突然の言葉に怪訝な顔をしていたお母さまはやがてその意味を察すると、泣いてお義父さまに翻意を迫ったのですが無駄だったのです。

いつからか雪乃はお義父さまの邪な欲望の標的にされていたのでございます。

 

この運命から逃れようがないと覚悟した雪乃は

「お母さま、雪夫はお義父さまのもとへ参ります。でもこのままの姿では…。僕に花嫁衣裳を着せて…雪夫は花嫁になってお義父さまへ嫁ぎます」

文金島田に角隠し、お振袖の裾を長く曳いた花嫁姿。

幼いころより胸に秘めながら、一生叶わぬと諦めていた夢がこんな形で現実のものになろうとは・・・

 

 短い秋の日も西に傾き夕闇の迫る頃、出入りの髪結いに文金高島田に結い上げられた雪乃は花嫁衣裳の着付けの最中でございました。

「まさか私の花嫁衣裳をあなたに着せる日が来ようとは…」

お母さまはそう言いながら涙ぐむのでございました。

「仮初めの花嫁とはいえ、今宵は新しい門出。精一杯きれいな花嫁になりましょうね、こうして簪もいっぱい挿して・・・」

そう言ってまた涙ぐむのでございました。

 

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それから小半時もして辺りに夜のしじまが漂うころ、お義父さまのお寝間に白無垢の花嫁衣裳に身を包んだ雪乃の姿があったのでございます。二つ枕に三つ重ね、艶めかしい初夜の褥を前に

「不束者でございますかが、どうか幾久しゅう…」

雪乃はそう三つ指をついたのでございました。

 

ああ、この言葉を何度夢の中で口にしたことでございましょう。雪乃は今長い間憧れてきた花嫁になった悦びに震えておりました。

「待っていたぞ、雪夫。さあ、こっちへおいで…」

そんな言葉を夢見心地に聞きながら雪乃はお義父さまの腕の中へ崩れ落ちたのでございます。